学校で救急車を呼んだ時の話
実際にあった事故で
放課後、生徒が慌てた様子で職員室に来ました。
「保健室の先生はいますか!」
あまりにも慌てた様子なので職員室にいた教員に緊張が走ります。
「ケガ人か?」
「はい!倒れて返事をしません!」
「場所は?」
「運動場の陸上部のところです」
すぐに教員数人がそこへ向かいます。
陸上部の練習でハードルを飛び越えるときに足が引っかかり、バランスを崩したので立て直そうと試みたけど最終的に転倒し、その際次のハードルの支柱部分に頭を強打して動かなくなったという状況でした。
養護教諭はいつも身に着けているポシェットからパルスオキシメーターを出して生徒に装着。次に肩をたたきながら耳元で「大丈夫?聞こえる?」と声をかけて意識の有無を確認します。
別の教員が呼吸していることを確認。声は出せないようですが微かに反応がある様子。そこで手をとって「手は握れる? 指を動かすのでもいいよ」と声を掛けると握り返してきました。「安心してね」などと声をかけ続けながらケガの様子をチェック。頭部の出血は少なく、他に腕と膝にすり傷がありました。
パルスオキシメーターの表示をみて脈拍数と酸素飽和度を何度もチェック。
現場まで学校の携帯電話を持って駆けつけた管理職はその様子を確認し、意識混濁の様子が見られることや頭部のケガであることから救急車を呼ぶべきだとすぐに判断。119へ通報。
そのうち生徒の意識レベルが上がってきて、少しずつ話をしながら痛いところはないか、記憶はどうかなどを少しずつ確認。すると、なぜ自分がここで倒れているのかわからないとのこと。
その間に他の教員たちが手分けしてやったこと。
・生徒からの通報時に職員室にいなかった教職員に情報共有
・AED、担架を現場に運ぶ
・応急措置を実施している現場から生徒を遠ざける
・倒れた生徒の名前を確認して家庭に連絡、搬送先の病院がわかったら再度連絡するので病院へ行く準備をお願いする
・その瞬間を見ていた生徒に何があったかを聞き取り、救急隊員に報告できるように用紙に記録して待機
・ケガをして倒れるところ、または倒れている生徒の姿を目撃して精神的なショックを受けている生徒を確認して別室に集めて落ち着かせ、それぞれの家庭に連絡して状況を説明して家庭でも様子を見てもらうように伝える
・時系列で起きたこと、対応したことなどをきちんと記録する
・救急車の進路確保のために運動場の部活を中止させ、道具などを移動させる
・救急車の誘導のために正門、運動場の入り口などに教員が分担して立つ
・倒れた生徒の荷物をまとめる
やがて救急車が到着。目撃した生徒から聞き取った内容を記録した紙を渡し、補足説明をして、養護教諭と顧問が生徒の荷物を持って救急車に同乗して病院まで付き添いました。
担任から倒れた生徒の家庭へ連絡し、搬送先の病院を伝えて病院に向かってもらいました。
病院に行った養護教諭と顧問は保護者と合流して生徒の荷物などを託した後、診察が終わるまで待ってその結果などを確認し、学校に一報を入れてからタクシーで学校に戻りました。
学校で生徒が倒れて救急車を呼ぶようなことが起きた時に役に立つかなと思いここに載せました。
このような事態を想定した訓練はしていませんが、教員はそれぞれできることを考えてスムーズに行動できました。
なお、病院に搬送された生徒は検査の結果特に心配するようなことはなく、翌日には家に戻りました。
救急車に誰が同乗するか
ある年の体育祭で、一人の女子生徒が応援席から動けなくなったので熱中症の可能性を考えて念のために救急車を呼んで養護教諭が同乗して病院に行きました。体育祭ではすべての教職員に係分担があって正門から運動場全体にかけてのあちこちに分散していて、すぐに動けるのは養護教諭であったことなどの理由だと思います。
ところが、そのあと次々に生徒が動けなくなり保健室へ。すぐに4床ある保健室のベッドはふさがり、床にシーツなどを敷いてそこに寝かされる生徒も。また保健室のどこに必要なものがあるかわからず、大混乱しました。対応に困った管理職は隣の小学校の養護教諭に来てもらえないかと連絡。とりあえず来てくれましたが顔も名前もわからない生徒も多いし、持病やアレルギーなどの情報がわからないので、とても困っておられました。
実際には、救急車で運ばれた女子生徒を見て自分も倒れたらどうしようと不安を感じたことから過呼吸、そして過換気症候群にまで進んだ女子生徒がいて、その生徒が担架で運ばれるところを見た他の生徒たちも不安や緊張状態になって、という「過換気症候群の連鎖」が発生したようです。
体育祭や校外学習などではこのような状況になる可能性があります。その際に管理職がどう対処するかを正しく判断できるように養護教諭の意見やアドバイスが重要になると思います。いわば養護教諭は対応する際の中核メンバーの一人。ですから行事の際には養護教諭が救急車に同乗するのは避けるべきだとの結論になり、これ以降この学校では「その生徒の学年の教員」が救急車に同乗することになりました。
校長によっては大混乱について教育委員会への報告書を作成する際、救急車に同乗して病院へ行った養護教諭の判断ミスが原因だと責任を一人に負わせる可能性もあるかもしれないし、春は様々な検診が多く養護教諭が学校を離れることができないこともあるし、タクシーチケットの使い方や保健室の備品類の位置などを多くの教職員が理解することにつながったし、よかったなと思いました。
今回のような「過換気症候群の連鎖」を防ぐためにどうすれば? も検討しました。
・教職員間の情報共有の課題。救急車が来て初めて体調不良になった生徒がいたことを知った教員もいました。どう対応するかの方針を確認し、生徒全体へ不安を抑える声掛けなどがスムーズにできるように情報の共有は重要。しかし、具体的にどうするかは難しいです。
・担架や車イスで運ばれる生徒を周りが見ることが連鎖のきっかけになるのなら、体調がおかしいと感じたら自力で歩ける段階で救護テントまで来るように生徒に呼び掛けてはどうだろう。ただ、救護テントに人が次々に来てしまう可能性があります。救急車を要請した段階で他の生徒も危険な状況なのですぐに体育祭を中止してエアコンの効いている教室へ生徒たちを移動させるのはどうだろう。そうすればストレッチャーで運ばれるところを周りの生徒たちに見せないですみます。ただ、体育祭の続きをどうするかが大きな問題です。
・結局、体育祭は気温が高くない時期に実施する。種目などを削減して体育祭の時間を短縮する。そういったことが大切との結論になりました。
以前勤務していた中学校では、全教室にアクションカードがありました。
要救助者を発見した生徒が、何を確認しどんな応急処置をすればいいのかを書いたカードと、職員室に持っていけばどこで緊急事態が発生しているのかが教員に伝わるカードです。
アクションカードについては、こちらが参考になると思います。
アクションカード(一般用)
https://n-shokyoken.jp/media/health/action_card/for_general.docx
救命アクションカードの原画の画像
https://www.pref.miyagi.jp/documents/9605/action2.pptx