新作 学級通信 やさしくすること

電車の中で

少し混んでいる電車での話です。
ある駅で白杖を持った方が乗車してきました。白杖は視覚障がい者が使うもので、周囲の様子を確認したり、転落などの危険を避けたり、自分が視覚障がい者であることを周囲に知らせるなどの役割があります。
白杖を持った方は聞こえてくる電車内の音や乗客の声の様子から混み具合を察したのか、ドアの横にある手すりを持ってそこに立ちました。白杖は自分が進もうとする先に何かあるか確かめるために使います。だから混雑した電車内で移動すると白杖を誰かにぶつけてしまう確率が高くなります。また電車が動き出したときに吊り輪や手すりがどこにあるかわからないので転倒する危険があることを考えての判断だと思います。

視覚障がい者を誘導するとき

次の駅で席が空いたので声を掛けようとしたら、女性が素早く動いて白杖を持った方に「席が空きましたよ。」と後ろから声をかけて席に誘導しました。ただし、声をかけて急に腕を引っ張る形だったので、白杖を持った方は怖がっていました。
さらに空いた席は4~5人が座れる席の真ん中あたり。こちらにどうぞと言われても正確な座席の位置などが視覚障がい者にはわかりません。
まず正面に立って「席が空いたので案内しますから手を出してください」と言ってからこちらのひじか肩を持ってもらい席まで歩きます。そして「こちらの方に座っていただきたいのですが、手すりがあった方が座るときも立ち上がる時も安全です。詰めていただけませんか」と座っている人に声をかけて協力を依頼して、手すりに手を誘導して「手すりの左(右)に空いている席があります」と伝えて座席の端に座ってもらえたら、もっと安心してもらえたと思います。

人にやさしくするって、むずかしい

白杖を持っていることがどのような意味を持つかがわかっても、声の掛け方や誘導の仕方まで理解していないと、逆に困らせてしまうこともあります。
でも声の掛け方や誘導の仕方を知っていても、困っている人に対して行動できないとその知識は役に立ちません。
人にやさしくするには知識も行動力も必要ということになりそうです。とてもむずかしく感じる人もいるかもしれませんね。でも、むずかしいからということで尻込みをしたりあきらめたりしていたらやさしくはできないだけではなく、人と関わることさえもできなくなってしまいそうです。

人にやさしくすることは

それでも僕はみんなに言いたいです。人にやさしくして欲しいと。
世の中に一人で何でもできる人はいません。わからないことがあったら教えてもらう。できないことや苦手なことは手伝ってもらう。大きな物を運ぶ時には協力してもらう。このようなことは当たり前のことだと思うのです。
逆に言えば、わかることがあったら教える。できることや得意なことは手伝う。大きな物を運ぶ時には協力する。これも当たり前のことだと思うのです。そしてこれが人にやさしくするという行為そのものになります。

もうひとつ、僕がみんなに人のためにやさしくしてほしいと願うのは、みんな自身のためです。
自分には何の価値もない と思い込む人がいます。ちょっと専門的に言うと「自己肯定感が低い」と表現するような状態です。自分自身を受け入れられない精神状態だと言えばわかりやすいでしょうか。
周りの誰かにやさしくして、やさしくした相手から「ありがとう」って言われたらどうでしょう? さらに、勇気を出して誰かにやさしくできたら自分で自分をほめることができると思いませんか? そうすれば自己肯定感を高めることにつながり、自分に自信が持てるようになります。人にやさしくするって、やさしくされた人にもプラスだし、やさしくした人にもプラスだし、その場面を見ていた人にもプラスになります。

さっき、人にやさしくすることはむずかしいという話をしましたね。実際、うまくいかないこともあります。でもやさしくする経験を重ねると、人は段々上手にやさしくできるようになるんです。だからぜひ、どんどんやさしくしましょう。