人の成長 と 感受性期
アマラとカマラの話
人間の赤ちゃんは、成長するとみんな人間になるのでしょうか? そんなことは当然だと思うかもしれませんが、じつは成長していく環境によっては、人間らしい人間にならないかもしれないのです。
その極端な例を紹介します。狼に育てられたという二人の女の子の話です。こんなことはありえない話だと否定する人もいますが、この話を読んでみんなはどう思いますか?
*** 狼少女・アマラとカマラの話 ***
1920年、インドのミドナプールに狼と一緒に生活している不思議な生き物のうわさがありました。その真実を確かめるために現地へ行ったシング牧師が見たのは、狼の群れの中にいる人間そっくりな生き物でした。しかも、2人いました。
捕まえてみると、やはり人間の女の子でした。年少の少女はアマラ(推定1歳半)、年長の少女はカマラ(推定8歳)と名付けられ、発見者であるシング牧師の孤児院で育てられることになりました。この2人は姉妹ではなく、おそらく乳幼児期に別々に捨てられたあと、狼に育てられたと推測されました。
この子達はまさしく「狼」でした。四つ足で走り、地面に置かれた皿から手を使わずに飲み食いし、死んだ鳥の肉を見つけると食べ、夜には遠吠えしました。また、暗闇を恐れなかったそうです。
シング牧師夫妻は、アマラとカマラが人間らしく生活できるようにするための粘り強い取り組みを続けました。年少のアマラのほうが、少し早く人間としての生活に慣れ始めましたが、発見されてから1年足らずで亡くなりました。
狼と生活していた時間が長かったカマラは、成長の過程で少しずつ人間らしさを取り戻しましたが、推定17歳で亡くなるまでに3~4歳の知能までしか発達することができず、30語ほどしか話すことができなかったと記録されています。
この事から環境の大切さがわかると思います。たとえ人間の赤ちゃんであっても、狼として育てられる環境にいれば、運動能力もこころも人間らしく発達することができず、狼のように成長することがあるのです。
よい環境と感受性期
よい『環境』とは、よい経験を積み重ねることができる状態が安全に安定して続くことであると言えます。ではよい『経験』とはどういったものでしょうか。
『経験』と成長との関連を調べるために、途中に大きな溝をつくった部屋を用意して、ハイハイをする赤ちゃんを自由に遊ばせるという実験がありました。溝の部分には透明な板がのせてあるので、実際に赤ちゃんが落ちることはありません。観察していると、ハイハイを始めたばかりの赤ちゃんは透明な板の上を平気で通過するのに、ハイハイを始めて数週間後の赤ちゃんは透明な板の上にのらずに溝を避けるという行動の差があらわれました。ハイハイ歴の長い赤ちゃんは、どうやら落ちることを恐れているようです。
この実験の結果わかることは、目で空間の広がりを認識する能力は、ハイハイをして実際に移動する経験を積むことで獲得できるということです。このような例はたくさんあって、子どもにはいろんな経験をさせることが大切だということがわかります。ただし、それぞれの子どもが能力を獲得していくには『時期』というものも考慮しなければなりません。早く能力を開発したいから、または、いろんな能力を身につけさせたいからなどといって、無理に経験を積ませてもうまくいかないのです。
『経験』と『時期』との関係については、次のような考え方があります。脳やDNAの中にいろんなスイッチがあり、成長や発達にともなって必要な時期が来たり、何らかの刺激を受けたりするとそのスイッチがONになって、機能が発達したり能力を獲得することができるという考え方です。この時期を感受性期と言います。
この感受性期の存在は様々な動物実験の結果わかってきたもので、いつごろどんなスイッチがONになるのか、どうするとONになるのかなど、まだまだわからないことが多いです。今この瞬間も、みんなの何かの能力の感受性期真っ最中で刺激や経験を待っているのかもしれません。だらだら過ごしていると、成長のチャンスを逃してしまうかもしれないのです。だから、みんなはこれからいろんなことにチャレンジするべきです。
そして、それはこのクラスをよいクラスにしていくだろうと思います。