昔の話・友だち・大切なこと

昔の話

 もう20年以上も前です。僕が初めて1年生の担任をしたとき、先生を辞めようかと思ったことがありました。クラスの一人の女の子が、ある日突然行方不明になったのです。家庭の事情で、家族みんなでどこかへ行ってしまったようです。探すあてなんかなく、いくら待っても連絡は来ず、クラスのみんなも不安を抱きながら月日だけが過ぎていきました。
 どれくらい過ぎたのかあまり覚えていませんが、ひょんなことから、こっそり家に戻ってきていることがわかり、すぐに家に駆けつけました。そして、その女の子に会うことができました。学校に行こうと話をしましたが、恥ずかしくて行けないと言います。いろいろと説得して、ぜひ行きたいというクラスの友だちがいたら、この家に連れてくることだけは認めてくれました。
 早速学校へ戻り、クラスの生徒に事情を話すと30数人の生徒がクラブを休んで一緒について来てくれました。まるで教室がその女の子の家に移動したような感じになりました。正直言って、そんなにも来てくれるとは思っていなかったので本当にうれしかったです。女の子もそのことがきっかけで、次の日から学校に来ることができました。まるでドラマのような話でしょう?
 でも、実際には何日か過ぎて、再びその女の子の家族は、どこかへ行ってしまいました。それっきり会うことはできていません。僕は自分の非力さを痛感しました。何もできなかった自分が情けなくて、つらくて、先生を辞めたいと思いました。

友だち

 ひどく落ち込んだ気分でいると、就職して以降たまにしか会わない友だちから、たまたま電話がありました。特に用はないけれど、どうしているかなぁって。何でも話せる相手だったので、正直にその時の自分の気持ちを言いました。すると酒でも飲みながら話をしよう、今から1時間後にいつもの店においでと言われました。
 約束の時間に店に行くと、電話してきた友だちではなく同じグループだった別の友だちがいました。偶然ではなく最初に電話してきた友だちが呼んでいたのです。やがて、落ち込んでいる僕のために、たまたま電話をしてきた友だちも含めて4人も集まってきました。急な話だったのに。そんな、こころから信頼できるやつらだったから、正直に話をしましたし、みんなからもいろいろと言われました。
 その中で普段はおとなしい友だちは真剣に怒ってくれました。その友だちは教師になりたかったけどなれなかったのです。だからこそ、落ち込んで辞めることを考えている僕が許せなかったのかもしれませんし、はげましてくれたのかもしれません。その友だちが怒っているところをそれまで見たことがなかったのですごく驚いたし、でも真剣に怒ってくれたことがとても嬉しかったです。だって、真剣に怒ってくれるってことは、僕のことを大切に思ってくれている証拠ですから。そんなことがあって僕は今も先生を続けています。

大切なこと

 今年、僕はまた、自分の無力さを痛感しました。あれから20年ほどたっているのに、また、何もできなかった自分が情けなくて、つらくて。人間として教師として成長していないんじゃないかと思えたのです。そこからまだ立ち直れていないところへ、先週のチョコの事件です。タイミングが悪すぎました。たかがチョコと言ってしまえば済むのかもしれないけど、僕にとってはショックでした。
 4月から今までルールを守ることの大切さを教えてきたつもりだったのにとか、先月の不要物の学年集会もあったから今回は大丈夫だろうと信じていたのにとか、いろいろな思いが頭の中をグルグルと駆け巡りました。また、チョコを持って来てしまった人に対して、クラスの中から怒りをぶつける人が少ないんですよね。相手のことを大切に思うなら、真剣に怒ってもいいと思うのに、それがないということは2組の人間関係って・・・
 ふと、気がつくと生徒に対する信頼を失いそうになっている自分がいました。プロのスポーツ選手が、自分で納得のできるプレーができなくなったら引退するように、生徒を信頼できなくなった教師は辞めたほうがいいのではないか。そんな考えも浮かんでしまって、自分らしさを失っていました。そのことについては、申し訳なく思っています。本当にごめんなさい。
 大切なのはこれからどうするかだと、これも何度も言ってきましたね。今、自分自身にも言い聞かせています。