答えられなかった質問
※この学級通信は、2015年に発行されたものです。
タイガーマスク現象
今から4年ほど前、テレビや新聞でタイガーマスク現象とかタイガーマスク運動とか呼ばれるものが話題になりました。
発端は児童養護施設に4月から小学校に入学する子どもたちへと新品のランドセルを贈った人がいたという報道でした。その時にアニメ化もされた漫画「タイガーマスク」の主人公の名前を名乗ったので、そう呼ばれたんです。
今年も同じような贈り物はあちらこちらに届いているようですし、今さらタイガーマスク現象の内容について細かく説明しませんが、この報道を見て僕の胸の奥でなんだかチクリとする、30年以上前の経験を話したいと思います。
児童養護施設で
児童養護施設というのは、家庭の事情などで親と一緒に生活することが出来ない3歳~18歳ぐらいまでの子どもたちが生活する場で、全国に500以上あって3万人以上の子どもたちが暮らしています。◇◇市には児童養護施設はないようですが、隣の市内にはいくつかあります。
僕がまだ高校生だった時に参加していたボランティアグループに、〇〇市のある児童養護施設から依頼がありました。その施設の子ども達でソフトボールのチームを作り練習をしてきたが、年齢層が幅広くて(小学生も中学生もいるので)なかなか対戦相手を見つけられずに困っている。何とか試合の相手をお願いできないか、というものでした。さっそく人数を集めてある日曜日に行ってきました。
予定時間よりも早く着いたので、施設の中を案内してもらい、何人かの子どもたちと自己紹介をしたり、おしゃべりをしたりして過ごしました。そんな中で、ある小学生の男の子のロッカーを見る機会がありました。中には、ぎっしりとおもちゃやゲーム類が入っていました。時々会いに来てくれる親や親戚が持ってきてくれるんだそうです。普段つらい思いをさせているから、少しでも… という気持ちは理解できます。でも、それらのおもちゃは、あまり使いこまれた様子はなくて、中には新品同様で開けてもいないように見えるものもありました。子どもたちが求めているものは、「物」ではないんだろうなと感じました。
だからと言って、物やお金を送り届けるタイガーマスク現象が無意味だと決めつけられないと思います。どんな気持ちを込めて何を届けるのか、難しい面はあるし自己満足だろうなんて言われるかもしれません。でも、世の中には優しい人たちがいるんだということが伝わることは、決してマイナスにはならないと僕は思うのです。
答えられなかった質問
ソフトボールの試合を終えて、帰る前のことです。〇〇市駅まで車でピストン輸送してメンバーを運んでもらうことになって、順番を待っていました。僕の順番は最後だったので、その日仲良くなった小学生の女の子が見送ってくれることになりました。
「次はいつ来るの?」といった話をしているうちに、その施設の夕食の時間になりました。
「そろそろ食堂に行かないとあかんのとちがうの?」と僕が言うと、
その女の子は「お兄ちゃんは晩ご飯どうするの?」と聞いてきました。
「家に帰ってから食べるよ」
「お兄ちゃんの家では誰がご飯を作るの?」
「僕のお母さんだよ」
「おいしい?」
僕はその質問に答えられませんでした。その施設には約80人の子どもたちがいます。他に職員等の分も含めるとたくさんの食事を作らなければなりません。栄養のバランスや味付けなどは完璧に計算されているでしょうし、調理担当の方は心をこめて作ってくださっているとは思います。それでも、やっぱり家で親が作ってくれた料理とは何かが違います。その日の昼食は、その分のお金を払って子どもたちと一緒に同じメニューを食べました。だから、そのことが何となくわかっていました。
僕は何も答えられませんでした。そして話を逸らして逃げました。そのことが、僕の胸の中でずっと引っかかっています。あの時、僕は何かを言うべきではなかったのかと。今でも時々思い出して、何と言えば良かったんだろうと考えることがあります。でも、いまだに納得できる答えは見つけられずにいます。