もっと上を目指そう!
ある女の子との出会い
明日は「生命について」、明後日は「福祉体験」と続けて特別授業が予定されています。普段の授業とは違う取り組みの中で、様々なことをしっかりと学んでほしいと思っています。そこで今回の学級通信は、ずいぶんと昔になりますが、僕が出会った目の見えない女の子の話をします。
僕が高校生の時、通っていた高校に入りたいと思うクラブがなかったので、地域で山登りやキャンプなど野外活動をしているサークルのようなものに入りました。そのサークルの中に、ずっとボランティア活動に関わっていた人がいまして、そして、あるきっかけでお手伝いをすることになりました。少しだけ手話を覚えたりしたのはその頃です。そして、その女の子と出会いました。
点字の絵本
ある日、市民会館の会議室で講演会のような催しがあり、あるお母さんが話をすることになっていました。そのお母さんの子どもが目の見えない女の子で、そのことが縁で講演会に招かれたのです。その女の子は小学校の1年生か2年生で、講演会の間じっと待っているだけでは間が持ちません。そこで、僕がしばらくの間一緒に過ごすことになりました。
まず、女の子が持ってきていた絵本を読むことにしました。と言っても、点字の絵本なので僕にはさっぱりわかりません。点字の文章と、点字と同じような点で絵が描かれた色のない真っ白な絵本。僕には逆に見えないんです。
それから驚いたのは点字を読むスピード。僕は、指で読むんだから一文字ずつゆっくりと読み取っていくんだと思っていたのです。ところが、実際は指でサーッとなでるだけ。大したもんだと感心したり驚いたりしていると、急に「この本、目次がないよ。ねぇ、見て」と言われて、ほんと、あせりました。だって、ただ単に真っ白なページばっかり。僕は点字も読めないし何がなんだかわかりません。なんとかごまかした事を覚えています。
階段で競争
当時、市民会館の3階には図書館があったので、そこにいけば少しは時間を過ごせるかと思って、おしゃべりをしながら階段をあがって行きました。ところが、残念なことに、その日図書館は閉館していました。
当てが外れて少し困っていたら、その女の子が「競争をしよう」と言い出しました。1階まで階段を降りる競争をしようというのです。相手は小学校の低学年でしかも目が見えません。こっちは高校生。きっと手すりを持ってゆっくりと降りるだろうから、うまく相手をしておけばいいかと思い「いいよ」と返事をしました。ところが、スタートしてみるとめちゃくちゃ早い! とても目が見えないとは思えないスピードで階段を駆け下りていくのです。ぼくは「え?」と思ってすぐに本気モードで追いかけたのですが、その時にはもう間に合いません。最後まで追いつけませんでした。完敗です。
なぜこんなに早く下りられるのかと聞くと、その女の子は階段を上がりながら階段の段数や高さ、ステップ部分の横幅や奥行きなどを覚えたというのです。しゃべりながら一緒に階段を上がっていた僕は、彼女がそんなことをしているとは気が付かなったし、そんなことが出来る人間の能力って、すごいなぁと心から思いました。そして、自分自身の態度も反省しました。
もっと上を目指そう
この女の子がこんなにすごい能力を発揮できるのは、本人の努力ももちろんですが、彼女の家族の支えがあったことも疑いありません。後日聞いたところでは、お母さんはこの女の子が幼い頃から外で遊ぶようにと家から出し、こわいと泣きながら帰ってきてもそれを許さなかったそうです。さらに自転車に乗ることにも挑戦させました。目が見えないからと甘やかしていたら、ここまでできるようになってはいなかったでしょう。
君たちにも、すごい能力がきっとあって、その多くはまだまだ隠れていると思います。でも、それを引き出すためには自分で自分を甘やかすのではなく、もっと上を目指す姿勢が必要だと思うのです。僕がよく「もっと上を目指そう」「もっとできることはないか、考えよう」と言っているのはそのためです。
今回の特別授業も、君たちの経験の幅を広げ、君たち自身の能力や可能性をも広げていくきっかけになればいいなぁと思うのです。先週も国際理解の一環として、94年にルワンダで起きた大虐殺を扱った映像を見ましたが、途中で寝ている人が何人もいました。それではいけないと思います。明日からの特別授業では、そういうことがないようにまじめに取り組んでください。