すごい演技につなげるポイント

般若の面

 日本独自の発展をしてきた「能」は、1300年位前に中国から日本に伝わった「散楽」が起源だと言われています。演者は能面をつけますが、その中に「般若」という鬼のような角を持つ女性の面があります。般若の面は、よく見ると左右対称になっていないことが多いんです。角の角度や大きさ、口角や鼻の形などが少し違っているのです。
 能では、舞台の左から登場して退場も左へということがよくあります。すると登場するときは客席から般若の面の右半分が見えることになり、退場する時は左半分が見えることになります。そこで、登場するときは嫉妬や怨念で怒り狂っているので右半分をより恐ろしい形相にしておき、退場するときは成仏したり改心しているので左半分を柔和な表情に近づけておくのです。
 般若の面の左右のちがいは正面から見て、すぐにわかるようなちがいではありません。しかし、そこに演者のしぐさや態勢の変化などが加わるだけでさまざまな表現をすることが可能になるんです。
 さらに、般若の面には嫉妬や怨念だけではなく、嘆きや悲しみの意味も込められています。そこで、演者は嘆きや悲しみを表現するときは、少し俯き加減にします。そうすると、般若の面にかかる影が大きくなって見ている人に般若の心の変化が伝わるのです。
 2組の劇の役者の人たちは、これから細かい部分まで演技を考えると思います。その時に頭のてっぺんから足のつま先まできちんと意識して考えてください。顔の角度や視線なども大切にしてください。ほんの小さなことでもそれを積み重ねていけば、あとですごい演技だったと言ってもらえるようになるからです。
 また、自分で自分のことがわからない時ってよくあります。周りで見ている人の方がわかることもあるので、見ていて気がついたことがあったら、お互いにどんどんアドバイスをしましょう。

舞台演劇でのポイント

 明日、2回目の体育館練習があります。それまでに、基本的な立ち位置や動きをそれぞれのチームできちんと決めておきましょう。その際に次のような点について考えておくようにしてください。

・少しでも客席に声が届きやすくなるように、舞台の前(客席に近い所)で演技するように考えてください。これは、客席の端の方に座った人から、舞台の奥に立つ役者が見えなくなることを防ぐことにもつながります。だから、常に背景のホリゾントの1m以内に近づかないこと。

・舞台の上にどんな道具をどこに配置するのかも考えてください。同時に、その道具類を誰が運んで配置し、次の話に移る前に誰がどこへ運び出すのかもしっかり考えて決めてください。役者だけでは無理なこともあるかもしれません。そういう時こそ他の係の人たちとのコミュニケーションが大切です。

・セリフのない時間帯でも、舞台の上に立っている間は演技をしなければならないことを忘れないこと。昨日の学級通信に書いたように、登場人物の気持ちがつかめたら自分はどう演技すればいいのかわかってくると思います。
動きを考えているうちに、少しセリフを変えた方がいい場合も出てくるかもしれません。同じチームの人たちと相談しながら、必要なら変更してもかまいません。実際、プロの俳優はその役になりきったとき、自然に脚本にないセリフが出てくることがあります。これをアドリブと言いますが、場合によってはこれもありです。

・通常の舞台だけではなく、張り出し舞台なども使ってできるだけ広い範囲で動きを作ってください。映画やテレビのドラマでは、簡単にカメラワークによる視点の変更や場面転換ができますが、舞台での演劇では非常に難しいです。その分、観客の視点を切り替えるように、広い範囲での動きが必要なんです。プロのコンサートなどで俳優や歌手がワイヤーにぶら下がる演出をすることが多いのは、そのためです。

・体育館で練習する必要があるのは役者だけではありません。音響や照明なども本番に備えた練習が必要です。時間を無駄にしないように計画的に行動できるようにしてください。

・体育館練習は、練習だけではなく実験の場でもあります。「海のハープ」で使うかもしれないカリンバの音の聞こえ方はどうか。ミニスポットライトとして使うかもしれない補助光源が使えるか。これらの段取りを考えておく必要があります。

このクラスは、星新一の中から4つのストーリーを選び、オムニバスの形式で劇に仕立てました。
人形、海のハープ、ボッコちゃん、ある夜の物語 の4つです。
この形式の利点は役者のチームを4つに分けるので、覚えないといけないセリフの量が分散して役者の負担が減ること。演技の練習は場所さえ確保できたら4つ同時にできるので短時間で済むことなどです。
背景の絵は不思議な、またはあやしい感じの模様ようなものを描き、4つの話に関連する絵をあちこちに配置することですべての場面でおなじものをぶら下げたままにしました。
大道具もある話では横に倒してベンチに、別の話では立ててカウンターにするなど生徒たちは工夫をしていました。