演劇は『総合芸術』だ!

老人に変身した俳優

 ぼくは映画を見るよりも、生身の人間が目の前で演じる舞台芸術が好きで、若かった頃には演劇祭や人形劇フェスティバルなどによく行っていました。文化会館での公演の時にはスタッフのお手伝いをすることもありました。で、ごくたまにですが、公演が終わった後などに舞台俳優の方と一緒に食事をしながら少しお酒も飲んで、お話をするような機会がありました。今日はそんな機会に聞けたある俳優さんのお話です。

 その日、劇が始まる少し前に、その俳優さんの楽屋にコーヒーを届けに行きました。その人は45歳ぐらいですが、劇の中ではおじいさんの役を演じます。コーヒーを届けたついでに少し話をしたんですが、どう見てもおじいさんに見えないんです。衣装もメークもおじいさんらしいものになってはいるんですが、やっぱりどことなく老けた感じはしません。
 ところが、劇団のスタッフの「いたつきです」(劇を始めるために役者が配置につくという意味らしいです)と言う言葉が聞こえて、「わかりました」と答えて大きく深呼吸をして息を吐いたとたん、すっと身体の力が抜けて背中が丸くなってみるみる老人の姿に変わっていったんです。ぼくはまるで魔法でも見ているようでした。

ある舞台俳優の話

 公演が終わり、舞台装置も少なくて片付けが早く終わったので、その俳優さんにお食事を一緒にどうですか?と誘ってみました。喜んでOKをもらい、他の俳優さんと一緒に近くのお店に行きました。
 当然、俳優さんはもとの45歳ぐらいに戻っていました。2時間ほどご一緒したんですが、ずっとニコニコと笑顔で話をされていました。頃合いを見て、さっきの魔法のような大変身の話を聞いてみました。すると、「舞台が始まる前に、私がコーヒーを飲んでいる間も、音響さんや照明さんといったスタッフは仕事をしていますよね。今日の劇を作るまでにそういったスタッフは、時には徹夜までして準備をすすめてくれたわけです。私は小心者でして、そんな私を支えてくれる人たちの思いを無駄にするなんてことはできないんです。私の演技ひとつでスタッフの苦労が水の泡になってしまうかもしれないわけで、それが怖くて私は自分の役をつかむのに必死なんです。あなたは私が魔法を使ったと感じたようですが、本当に魔法が使われたとしたら、それは私ではなくてきっとスタッフたちですよ。」というような返事が返ってきました。
 正直、感動しました。その時までは、演劇とは総合芸術なんだということは、頭では理解しているつもりでした。でも、その俳優さんの話を聞いて、『総合芸術の意味』を心から理解できたような気がします。プロの演劇ともなると、音響、照明、衣装、道具、舞台装置、演出、渉外、会計、そして俳優など、いろんな仕事の分担があって、お互いの状況を確認したり時にはぶつかったりしながら、それぞれをみんながしっかりやり抜くことで完成する芸術です。いろんな要素の微妙なバランスの上に成り立っているから、成功した時に観客に感動をもたらすのでしょう。ぼくは、ますます演劇が大好きになりました。

4組の場合

 文化祭の演劇でも同じだと思うのです。いろんな仕事の分担があって、自分が担当する仕事をきちんとやりきる必要がありますが、すべての仕事はお互いに影響しあっていますから、他の仕事を担当している人たちとコミュニケーションを取りながら協力をしていく必要があるということです。
 昨日の夕方、僕は出張から帰ってきて、すぐに4組の教室と金工室を見に行きましたが、時間が遅かったので誰もいませんでした。そのかわり、他のクラスの担任の先生から金工室の様子を聞くことができました。話によると、すごくたくさんの生徒が集まって作業をしていたそうで、その話を聞いて僕はとてもうれしかったです。一部の人だけがしんどい思いをして作るのではなく、この調子でみんなが協力して困難やトラブルを乗り越えて、3年4組の劇を作り上げることができたら、もしかしたら演劇のことを好きになってくれる人が出てくるかもしれないし、この3年4組のことが好きになってくれる人が増えるのではないかと思います。