修学旅行と信頼のはなし
伊那谷道中で
修学旅行三日目、伊那谷道中で昼食を食べているときに僕から全員にさなぎの佃煮のことで呼びかけをしました。その話をくわしく説明したいと思います。
僕はこの中学校の修学旅行に参加するのは4回目。さらに下見等も含めると伊那谷道中には10回近く行っています。当然、お土産の買い物をすることも何度もあり、その度に店のおじさんやおばさんと話をすることもありました。そんな関係で、僕のことをおぼえている方もいます。◇◇館というお店の方もそんな一人です。
さて、昼食の集合時間までもう少しという頃、◇◇館の前を通りかかったらその店のおばさんが『ちょうど良かった。先生、ちょっとお願いがあるんですが…』と話しかけてきました。招かれるままお店に入ると、さなぎの佃煮を見せて『これを買ってくれた生徒さんがいるんですが、その後でふと見たら消費期限が6月10日までだったんです。今日が6日ですから、5日間ほどで食べてもらいたいんです。そのことをお伝えしたいのですが、顔もおぼえていなくて…』
そんなことならと思い、すぐにいいですよと言ったんですが、さらに『それから、消費期限が短いこんな品をそのまま売るのも気が引けるんです。交換できたら一番なんですが、同じ品でもっと期限の長いものがなくて。ですから、これは650円なんですが150円を返金して500円にしたいんです。そこで、こんなお願いをして申し訳ないんですが、この佃煮を買ってくれた生徒さんに150円を返して欲しいんです。お願いできますか?』と言いながら小さな袋に150円を入れたものをふたつ用意しました。しかも、『たぶん男の子と女の子一人ずつが買ってくれたと思います。でも、もしも、買ってくれた生徒さんがもうひとりいらっしゃったらいけませんので…』と言ってさらにもうひとつ。すぐにわかりましたと返事をして、150円の入った袋をみっつ預かりました。
450円の重み
消費期限を越えているわけではないし、買うときに確かめなかった方も悪いんだから、放って置いてもいいんじゃないか。そう考えてもおかしくないと僕なんかは思うんだけど、◇◇館のおばさんはそんなことはまったく考えず、逆に申し訳ありませんと何度も繰り返すのです。もう二度とその店に来ないかもしれない客の信頼を損なわないために、最善を尽くそうと考えるのです。そのために、たった450円とは言え、僕を信頼してお金を預けるんです。
僕は、その気持ちがなんだかうれしくて、そして、450円の重みを感じて、なんとしてもこの袋を届けようと思い、昼食時にみんなに呼びかけたというわけです。結局名乗り出たのは男の子ひとり。きちんと事情を説明して、150円を手渡すと喜んでいました。他に、どっちにしようか見比べていたけど、買わなかった女の子がひとり名乗り出てきて、それで終わり。
おばさんの信頼にしっかり応えなくてはいけないという気持ちが強くありましたから、昼食後、僕はすぐに◇◇館へ行き、結果を報告して300円を返しました。その時もおばさんはありがとうございましたとかお手数をおかけしましたとかを繰り返していました。なんか、最近いやなニュースばかりでうんざりしていたから、さわやかな気持ちになりました。
『信頼』を学んだ修学旅行
今回の修学旅行では、みんないろんなことを学んだと思いますが、僕が印象に残っているのは『信頼』についてです。『信頼』の大切さとか温かさとかそんな言葉では表現できないものを、この話とミーティングで感じさせられたと思っています。
夜中の12時までかかって12人しか進まなかった6組のミーティング。みんながお互いに信頼できたから、しっかり話もできたし、その話をしっかり聞いて受け止めることもできました。時間がかかったから良いミーティングだったとは必ずしも言えないと思いますが、少なくともあの夜のあの部屋の中には、信頼がいっぱいあったと思います。
昨日、ミーティングの続きをしました。修学旅行と違って学校の教室でやるのは雰囲気も違うし、大丈夫かなと少し不安もあったんですが、そんな心配は要りませんでした。まだ半分ほどしか出来ていないのでいつまでかかるか分かりませんが、昨日の様子を見ていると最後までしっかりできるでしょう。
手に入れるためにはすごい努力が必要だけど、噂や誤解、思いこみなどちょっとしたことで壊れやすい。『信頼』にはそんな一面があります。また、一方的に『信頼』すれば良いというものでもないし、毎日の生活の中で補強をしないともっと壊れやすくなるかもしれません。せっかく手に入れた『信頼』を、これからどうするのか。それが大切です。