ミーティングで何を話すのか

人間とコミュニケーション

 人は生まれてきた直後から、周囲の人とのコミュニケーションを持っています。たとえば、親が笑いかけると赤ちゃんも笑顔を返すし、親が悲しい顔をすると赤ちゃんも悲しそうな顔をします。表情でのコミュニケーションです。
 ミルクを飲むときも野生動物なら途中で止まらずに一気に最後まで飲み干しますが、人間の赤ちゃんは途中で何回も止まります。そのたびに親が「どうしたの?」などと言葉を発します。赤ちゃんは親から声をかけてもらえるように誘っているんです。このように言葉をまったく話せない赤ちゃんでも、何らかの形でのコミュニケーションを必要としていることがわかります。人間という生き物は、そういう生き物なのです。
 もしも、赤ちゃんが十分なコミュニケーションを得られないとどうなるか。アフリカでの極端な例を以前新聞で読んだことがあります。内戦で親が殺され、破壊された建物に放置された赤ちゃんがいました。助けを求めて泣き声をあげますが誰も来てくれません。数日後、国際援助チームが到着して、ぎりぎりのところでその赤ちゃんは救出され命を落とさずにすみました。
 しかし、その赤ちゃんはミルクを飲もうとしません。いくら泣いても誰からも相手にされない状態が長く続いたので、赤ちゃんは自分の存在価値を見失ってしまったのです。生きる力が湧いてきません。だからミルクを飲もうとすらしないのです。現地の援助スタッフは、こうなった赤ちゃんはもう死んでしまうから放っておくようにと言いました。より確実に助けられる命を優先しようという考えです。

ストロークとは

 人は人とつながりを持って、お互いに影響しあいながら生活をしています。それが大切であり、必要なことだからです。時には何気なく発した言葉でいやな思いをしたりさせたり、また、思いやりの気持ちがこめられたちょっとした行動でうれしい思いをしたりさせたりといったことを繰り返しているのです。
 このような「人が人に与えるはたらきかけ」を専門用語で『ストローク』といいます。ストロークは、意識してやり取りすることもあれば、無意識のうちにやり取りすることもあります。それがストロークです。ストロークは次の3つに分類されます。

○プラスのストローク・・・相手によい感情を抱かせるもの
 信じる、勇気づける、はげます、うなずく、心配する、尊敬する、ほほえむ、頼りにする、あいさつをする、ほめる、いたわる、感謝する、よりそうなど

○マイナスのストローク・・・相手にイヤな感情を抱かせるもの
 からかう、決めつける、悪口を言う、暴力をふるう、いい加減な返事をする、疑う、ウソをつく、ばかにした態度をとる、にらむ、不公平に扱うなど

○ゼロのストローク・・・相手にエネルギーを向けないですまそうとするもの
 無視する、話を聞き流す、相手にしない、見て見ぬふりをする、のけ者にする、返事をしない、ジャマ者あつかいするなど

 先ほどの赤ちゃんの話の続きです。援助チームの中に日本人がいました。あきらめられなかった日本人スタッフはその赤ちゃんをずっと抱き続けることにしました。仕事は山のようにあるけど、仕事の間も赤ちゃんを抱き続け、できるだけ声もかけるようにしました。無理やり口の中にミルクを流し込んで命をなんとか維持しながら、何日もその状態を続けました。やがてその赤ちゃんは自分からミルクを飲むようになったということです。
 この話は、ゼロのストロークで生きる力を失った赤ちゃんに、プラスのストロークを与えて回復させたと考えられそうです。ストロークって、場合によっては命にもかかわるものなんですね。みんなも今までいろんな人からいろんなストロークをもらってきたし、いろんな人にいろんなストロークをあげてきたと思います。

ミーティングで何を話すか

 修学旅行のミーティングは、みんなの前で自分のことを話す取り組みです。そして、その話す内容は、今まで自分が受け取ってきたストロークにはどんなものがあったのか。でいいと思います。前回の学級通信の感想を読むと、泣ける話をしなくちゃいけないと思った人もいるかもしれませんが、そうではありません。ストロークにはプラスのものもあるのですから、すごくうれしかったとか助けられたというような話でもいいのです。
 今までの自分を振り返り、どんなストロークを受け取ったか、思い出してみましょう。

※ストロークの概念を生徒に説明したあとは、いろんな場面で使えます。例えば、いじめはマイナスかゼロのストロークであること。文化祭の合唱の取り組みで、大きな声で歌うことはプラスのストロークになること。体育祭のリレーでバトンパスを失敗した仲間に励ましの声かけをすることはプラスのストロークであること。こういった具合です。