修学旅行 シミュレーション物語 その3
第9章 レスキュースタッフ登場
これでまだひとつ目です。あと13種類ものエレメントをクリアしないとゴールにたどり着けません。ある意味、全員が極限状態に追い込まれているわけです。と思ったら、清水君は心の動揺など一切見せずに淡々と進んでいます。すごい!と感心したけど、よく見たら足が震えていました。やせ我慢してただけか。
最初から楽しんでいたのは海野さんと木下さん。軽やかなステップで、クリアしていきます。その正反対なのが江田君。木にしがみついて動こうとしません。『もうあかん。これ以上行けません』という声が、森じゅうに響き渡っています。「まるで赤ちゃんみたい」という声にも『ボク、赤ちゃんだもん』と答えるぐらいです。
その叫びが届いたのでしょう。赤い服を着たレスキュースタッフが助けにきました。慣れた手つきでロープを用意し、江田君を下に降ろす準備を始めました。その間、江田君はおとなしく待っていたんですが、準備が終わったレスキュースタッフの「このロープで支えているから大丈夫。このプラットフォームから外へ飛び出して。」と言われ、またスイッチがONになりました。『無理無理無理無理無理無理無理無』 高速で舌が回転しています。
「赤ちゃんだから続けるの、無理かな」という誰かからの声に対し『赤ちゃんやめました』と、テレビのCMみたいなことを言いだし、結局、江田君は最後まで続けることになりました。
第10章 励ましの声
途中でリタイアすると、この高さからロープでぶら下げられることがわかったからか、みんなの態度が変わったように感じます。なんというか、覚悟を決めたみたいです。
それでも、スピードに差が出てしまうのは仕方がありません。後藤さんは一生懸命前へ進もうとしているのですが、地上までの高さ10mの恐怖はなかなか克服できるものではありません。秒速3㎝ぐらいのスピードでのろのろと進んでいます。前の人との間はどんどん開いていくし、後ろを振り返るとびっしりと人が並んで待っているし、それが無言の大きなプレッシャーになって、後藤さんはますますあせってしまい、パニック状態になって途中で完全に止まってしまいました。
その時です。後ろの方から「後藤さん、がんばれ! 大丈夫や。あせらんでもいいから。ゆっくりでいいから。一歩一歩着実に進んで行こう!」という声がしました。加藤君です。その声が届いて、後藤さんは少し落ち着きを取り戻したようです。
そこへ海野さんと木下さんが来ました。彼女たちは先に進んでいたんですが、後藤さんを応援するために戻ってきたのです。「大丈夫? わたしたちもついてるから、一緒に行こう。」という励ましの声に、後藤さんはうなずき、目を閉じて1回深呼吸をしました。そして目を開くと、さっきまでの10倍くらいのスピードで進み始めました。
このことがきっかけになったのか、あちらこちらでお互いに励ましあう声が飛び交うようになりました。「ここはちょっと揺れるぞ。ゆっくり行った方がええで」とか「上にあるロープを左手で持って、右足をここにかけたら進みやすいぞ」こんな具合です。
結局、途中リタイアが一人もなく、全員ゴールまで進むことができました。すごい達成感です。インストラクターの方が『生徒数が200人規模の学校なら途中でリタイアする人が4~5人くらいは出るものなのに、この学校はすごいですね。みんながまとまっているからでしょうね』とおっしゃっていたのが、とても誇らしく、そしてうれしい気持ちになりました。
その後の後藤さんと加藤君の会話。
『加藤君、さっきはありがとう』
「みんなと一緒にゴールできて、よかったな」
『水をかけられたことと、雪玉のこと。忘れてあげる』
「いや、あれは、ちょっ…… ありがとう」 二人とも大人だなと思いました。
第11章 ローエレメント
EXアドベンチャーでは、ローエレメントというプログラムも体験します。
これは、地上に設置してある木やロープで作られた遊具のようなものや、フラフープなどの道具を使ってグループ全員で協力して取り組む課題が出されるものす。その課題をクリアするためには、メンバー間のコミュニケーションが必要だし、グループ全体を見る視点とグループのためにメンバーの個性や能力を生かす姿勢を全員が持つこと、メンバーを心から信頼するとともにメンバーに心から信頼される関係になること、メンバー全員が気持ちをひとつにして課題に積極的に取り組むことなど、表面だけの団結ではなく本物の団結が要求されます。他にも創造性や発想力、情報の共有、勇気、思いやりなどいろんな要素も必要です。
それぞれの課題はそんなに難しいものではないのに、あともう少しというところで達成できなかったりします。制限時間があったりするし、なかなか課題がクリアできないからイライラするけど、苦労しながらみんなで協力して課題をクリアできた時の喜びはすごく大きいし、とても「濃い」時間です。
ローエレメントは、それぞれのグループが課題に取り組んでいる様子を見ながらグループとしての成熟レベルを判断し、インストラクターが適切な課題を選択していくので、すべてのグループが同じことをするわけではありません。どんな課題に出会えるか。そして、自分たちのクラスがどうなっていくか。楽しみにしていてください。
第12章 白馬ジャンプ競技場
修学旅行3日目。この日までお世話になった宿舎の皆さんにお礼を言って、お別れをした後、バスで20分のところにある白馬ジャンプ競技場へ行きます。
いろんなことをよく知っている久保君が「見てもらったらわかりますが、ここにはジャンプ台が二つあります。大きいほうがラージヒルで小さいほうがノーマルヒルと言います。日本で両方のジャンプ台があるのはここだけなんです。冬だけじゃなくて1年中ジャンプができるし、1998年に開かれた長野オリンピックのジャンプ競技はここが会場だったんですよ。今年のソチオリンピックで有名になった葛西紀明選手は、その時も飛んでいました。メダルは取れなかったけど」と、まるでリアルタイムで見ていたかのように説明をしてくれました。
競技会などがなければ、リフトや階段を使ってジャンプ台の上まで行って見学することができます。ジャンプ台までもう少しという場所にある階段は、冬に雪が積もらないように網目状になっているので下の景色が透けて見えます。風が吹き抜けると、怖さが倍増します。
ジャンプ台は、下から見上げた時のイメージと、上から見下ろした時のイメージが全然違います。「ジャンプ選手のように、こんなところから滑り降りるなんて僕にはできません」と江田君。多分、ほとんどの人ができないと思う。
ジャンプ台の上は、そんなに広くはありません。ふざけて押したりするのは絶対にしてはいけません。また、清水君みたいに、お米の袋を使って滑り降りてジャンプに挑戦しようとするのも絶対に禁止です。ジャンプ台のすごさをしっかり見学したら、次の人たちに場所を譲りましょう。
第13章 お土産の買い物
ジャンプ台の見学を終えたら、またバスで移動して安曇野スイス村でお土産の買い物タイムです。長野県は土産物の種類が多いので、あらかじめよく考えておかないと大変です。
阿部君は食べ物だけを買うと決めていたのですが、長野県の食べ物のお土産としては、そば、野沢菜などの漬物、いろんなフルーツを使ったジャム、おやき(まんじゅうみたいなもので、野菜や漬物、あずきなど地域によっていろんな具がある)、イナゴの佃煮、蜂の子、五平餅、わさび、みそ、定番のクッキーやパイや団子やまんじゅうなどがあります。他にもポッキーやぷっちょなどの長野限定の味があったり、ビッグサイズのものがあったりして、めちゃくちゃ種類が豊富です。阿部君はこんなことを予想していなかったみたいで、通路の真ん中で放心状態で立ち尽くしています。
長野県は野菜や果物などの農産物も豊富だし、木や竹などで作られた工芸品なども有名です。小野さんは「これかわいい。あ、これもかわいい。これどうなってんの? そういうことか、かわいい」などと見ている時間が長すぎて、気がついた時にはレジに長い列ができていて、あわてて買うものを決めて自分もレジに並びました。
最終章 みんなでつくろう
修学旅行を本当に良いものにするためには、参加するみんなが良いものにしようと努力する必要があります。ぜひ、みんなの努力をたくさん積み上げて、楽しい修学旅行を作りましょう。