修学旅行 シミュレーション物語 その2

第4章 ローレライ伝説

 またゆるい流れに入って少ししたら、隣を進むボートから声が聞こえてきた。小野さんが短歌を詠みだしたようだ。そのボートに向かってフランツが何か叫んでいる。ドイツ語だから何を言っているのかほとんどわからないけど「ローレライ」という単語が聞こえたような気がする。小野さんの声を、歌声で船乗りを誘って川の中に引きずり込むローレライ伝説と重ねて考えたのかもしれません。
 たしかにローレライ伝説はドイツの話だけど… と考えていると、なんとなく隣のボートとスピードを競うみたいになりました。そしてなんとなくお互い意地になって、みんなでパドルを力いっぱいこいでいると、加藤君がパドルの操作を失敗し、大量の水しぶきが発生。それが隣のボートに乗っていた後藤さんの顔面を直撃しました。そのままなんとなく双方のボートの間で水かけ合戦になりました。全員びしょ濡れになるような猛烈な水しぶきがおさまったあとの、後藤さんと加藤君の会話。
 『加藤君、わざとやったでしょ。』
 「ちがうちがう、ぜんぜんわざとじゃないし」
 『わたし、ずっと忘れませんから』 そして眼鏡の奥の目がキラリと光って…。
うわぁ、これはローレライよりも恐ろしい! 

第5章 フランツと写真

 雪解け水のせいか、ウェットスーツを着ていても川の水を浴びるととても冷たい。でも、なんだか気持ちいい! きっとまだ雪がたくさん残る名前も知らない高い山々の景色が素晴らしかったのもあるけど、川を下りながらギャップを越えるたびに、同じ班のメンバーとの距離が縮んでいるからだと思います。
 川幅は広くなったり狭くなったりと変化しています。聞いていた通り、川の支流が合流したりして水量は増えてきましたが、本当にみんなで楽しむことができました。いよいよ最後の急流帯に向かいます。1時間なんてあっという間です。もっとラフティングをしたいって思いました。みんな同じ気持ちだったみたいで、30秒ほど後ろ向きに力一杯パドルをこいでみましたが、でも、やっぱり川の流れにはかないません。私たちの願いもむなしく、ゴールに到着しました。
 ゴールの近くでは写真屋さんが待ちかまえていて、また写真を撮ってくれました。パドルを高く掲げて、歓声を上げて…。もちろんフランツと一緒です。ラフティングに参加する前とは違って、みんなとてもいい笑顔でした。学校に戻って写真の申し込みをする時がとても楽しみです。わたしは、きっと、このときの写真を買うと思います。
 ゴムボートを陸揚げして、お世話になったガイドの方々にきちんとお礼を言ってお別れした後、遊湧自然館さざなみというところでシャワーを浴びて、着替えます。再びバスに乗って1時間少々走ると宿舎に到着です。

第6章 栂池自然園へ

 2日目、雪遊びをするために栂池自然園へ行きます。宿舎を出て30分ほどで栂池高原駅に到着します。でも、雪は見当たりません。冬ならこのあたりでもスキーができるほど雪が積もっているそうですが、さすがに6月では無理です。ここから1000mほど高い所まで行くと雪がまだまだあるのでそこに向かいます。
 栂池高原駅の標高は831m。ここから6人乗りのゴンドラリフト「イブ」に乗ります。距離は4120m、約20分で標高1560mの栂の森駅に到着します。途中白樺駅がありますが、そこでは降りません。「なんや、もう着いたんか」と降りそうになった伊藤君は、また「すいません、すいません」を連呼していました。
 高いところが苦手な江田君は、ゴンドラに乗っている間、ずーっと何もしゃべらず、上を見ていました。ワイヤーを支える支柱を通過するときにゴンドラが少し揺れるので、そのたびに歯を食いしばって耐えていました。絶叫マシン大好きな海野さんは、眼下の景色を平気で眺めていました。そのうち「あ、何かいる!」と叫びました。江田君を除くみんなでよ~く見ると、林の中に確かに何かがいます。木下さんは「あんなところにバッファローがいる!」と言いました。即座に久保君が「こんな所に野生のバッファローはいません。あれはカモシカです。」と言いました。ゴンドラの中は少し微妙な雰囲気になりましたが、江田君は気がまぎれたみたいです。
 あらためてカモシカを見ると、急な斜面を悠々と歩いています。雪遊びをする栂池自然園では雷鳥を見ることができるかもしれないそうで、このあたりは大自然がそのまま残されているところなんだなと、感じました。
 ゴンドラの終点の栂の森駅で降りたら、少し歩いて栂大門駅に行き、そこからさらに定員71人の栂池ロープウェイに乗ります。距離は1200m、約6分で自然園駅に到着します。自然園駅の標高は1900m近くあるので、雪遊びで斜面を上がれば2000mぐらいになるのかも。大きなロープウェイから降りると、空気が冷たい! 涼しいどころではなく、寒いって感じです。これなら雪が残っているのも納得だし、雪女が出てきてもおかしくないと思いました。

第7章 雪遊び

 さっそくお米の袋を持って斜面を登っていく人たちがいます。久保君は「まだまだ若いもんには負けへんでぇ」と言いながら、先頭に立ってすごく高い所まで登っていきます。
 小野さんは、斜面の下の方で固まりにくい雪に苦労しながら、雪だるま作りに挑戦しています。
 高い所まで登って長い距離を滑るよりも、とにかく早く滑りたい伊藤君は、さっそく雪の上を滑り始めました。助走をつけて滑り始めたんですが、思ったよりもスピードが出てしまって完全にコントロールを失いました。「うわあぁぁぁぁぁぁ~」と長い悲鳴の尾を引きながら滑っていく先には、小野さんが作っていたかわいい雪だるまが…。
 見るも無残に破壊された雪だるまを前に呆然とする小野さん。伊藤君は3回目の「すいません、すいません」連呼をしていました。
後藤さん、木下さん、海野さんの3人は、後藤さんを先頭にして3人が縦に並び、お互いに体を密着させるようにして滑っています。この方が一人で滑るよりも迫力が出て面白いのだそうです。
 失意で雪だるま作りを断念した小野さんはまた短歌か俳句を考えているようです。
 雪が残っていると言っても、もう6月なのでどちらかというとかき氷かシャーベットに近い感じです。阿部君は、イチゴ味のシロップを持ってきたらよかったとつぶやいています。右手にはスプーンを握りしめていて、雪を食べる気満々です。こんなに寒いのに雪なんか食べたら絶対お腹をこわすので、食べようとしたらすぐに止めようと佐倉君が少し離れたところで見張っています。ただし、斜面を何度も登るのがしんどいから、阿部君を見張るということを理由にして、休んでいる可能性もあると私は思っています。
 雪がこんな状態なので、雪の玉を作って雪合戦をするとかなり痛いです。加藤君が「野球部で鍛えた腕を見せたる。」と言いながら離れたところにいた清水君に向かって雪玉を投げたんですが、雪玉は大きくそれてしまい、清水君もキャッチできず、ちょうど斜面を滑り降りてきた後藤さんの顔面を直撃しました。
それからの二人の会話
 『加藤君、また、わざとやったでしょ。』
 「ちがうちがう、今度もぜんぜんわざとじゃないし。昨日のことだって、ちがうから。信じてください。」
 『わたし、これもずっと忘れませんから』
そして眼鏡の奥の目が再びキラリキラリと光って…。
うわぁ、これは雪女よりも恐ろしい! 

第8章 EXアドベンチャー

 EXアドベンチャーの駐車場に到着しました。周囲を見ると、林の木の上、地上から10mぐらいのところにロープかワイヤー、それに木の板や角材などが組み合わせて作られたコースがちらりと見えました。佐倉君はまた言葉を失い、大きく目を見開いて驚いていました。震える声で『あんなところ、僕は行けません』と言ったのは江田君です。『なんで?めっちゃ楽しそうやん』と嬉しそうに言ったのは海野さん。それぞれの思いを胸にスタートの場所に向かいます。
 この木の上に用意されたコースを進むプログラムは、ハイエレメントと呼ばれていて、各クラス男女別にわかれて取り組みます。
まず、安全に楽しむための装備を身に着けます。最初に渡されたのはハーネスといいます。パラシュートで降りるときに身体につけるような、いくつかのベルトを組み合わせたものです。このハーネスにライフラインと呼ばれる命綱がつながっていて、ライフラインはコースを回っている間ずっとワイヤーから外れないようになっているので、うっかり足を滑らせるようなことがあっても地面まで転落することはありません。とは言うものの、その瞬間はめっちゃ怖いことは間違いないと思います。しかも、ライフライン1本でワイヤーからぶら下がる状態になったら、どうやって元に戻るんだろう? そう考えると、絶対落ちたくないです。
 みんなこんなハーネスをつけるのは初めてなので、あちらこちらで混乱が発生しています。ハーネスの腕を通すところと足を通すところを間違えて、上下が逆になったのは久保君。ハーネスの構造に興味を持ってしまい、いろいろと調べながらついでにハーネスがねじれていたのを直そうとして、復元が不可能なぐらいグチャグチャにからませて、みんなよりすごく遅れて注意されたのは阿部君。みんなしっかりしようぜ! 
 最後にヘルメットをかぶって、準備完了です。
 装備を最終確認し、ライフラインをワイヤーに固定して、いよいよスタートです。先に女子が、そのあとに男子が続きます。はじめに地上から斜めに固定された丸太を登ります。丸太には切込みがあるけど、一歩、また一歩と登るたびに段々地面からの距離が高くなっていくのがわかって、結構怖い。『こういう時は、下を見なければ大丈夫。いろんな本に書いてあるじゃん』って、小野さん。それは無理! 下を見ないと落ちる!!